甲状腺の病気「バセドウ病(甲状腺機能亢進症)」について

バセドウ病とは? 甲状腺ホルモンの産生・分泌が過剰な状態

甲状腺ホルモン(FT3, FT4)の分泌が過剰になる病態(甲状腺機能亢進症)の代表的な疾患が「バセドウ病」です。

  • 甲状腺機能亢進症の70%程度がバセドウ病
  • 発症年齢は20~40歳が多く、次いで40~60歳
  • 男女比は 1:5 で女性が多い
  • 発症頻度200~1000人に1人程度

甲状腺ホルモンの分泌調整は脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)が担っています。
TSHは甲状腺のTSH受容体に結合して甲状腺ホルモンの産生・分泌を刺激します。

バセドウ病では、病的な自己免疫反応によりTSH受容体抗体(TRAb)が産生されてしまい、TSHの代わりにTRAbがTSH受容体に結合して、甲状腺ホルモンの産生・分泌が過剰に刺激されることから甲状腺機能亢進症になります。(TRAbが産生される原因・機序については未だ明確に解っていません)

バセドウ病の名前の由来は?

アイルランドの医師Graves(グレーブス)によって、1835年に初めて報告されました。

その後にドイツのBasedow(バセドウ)伯が独自に発見・報告しました。
日本の医学は、ドイツ医学に倣っていたのでバセドウ病と呼びます。英語圏ではGraves’disease(グレーブス病)と呼ぶことが一般的です。

バセドウ病の症状・診断について

古くから、 1.甲状腺腫大 2.眼球突出 3.頻脈 がバセドウ病の3徴といわれ、バセドウ病を診断する手がかりとしていましたが、必ずしもこの3つの特徴がみられるわけではありません。
現在では、血液検査で甲状腺ホルモンや、ホルモンを過剰に分泌させてしまうTRAb(TSH受容体抗体)などを測定できるため、バセドウ病の診断が容易になりました。

バセドウ病(甲状腺機能亢進症)の症状

バセドウ病では、甲状腺機能亢進症により全身の代謝が異常亢進しているために、下に記すように全身にさまざまな症状がみられます。

  • 眼球突出、眼球運動障害
  • びまん性甲状腺腫(甲状腺全体が腫大した状態)
  • 頻脈・動悸・息切れ
  • 多汗・暑がり
  • 手指振戦・筋力低下
  • 食欲亢進・下痢・腹痛
  • 過少月経・無月経
  • 体重減少(代謝亢進のため、よく食べているのに体重が減る)
  • 精神的高揚・イライラする、精神不安定、集中力の低下
  • 疲れやすい、不眠
  • 微熱が続く
  • 二次性骨粗鬆症
上記の症状はすべて表れるわけではなく、個々の患者さんで違いがみられます。

バセドウ病の診断

患者さんの症状をみて、必要な検査を行いバセドウ病の診断を確認します。
以下に診断ガイドラインを掲示します。

<バセドウ病の診断ガイドライン:甲状腺疾患診断ガイドライン2010>

バセドウ病では、甲状腺機能亢進症により全身の代謝が異常亢進しているために、下に記すように全身にさまざまな症状がみられます。

a.臨床所見
  1. 頻脈、体重減少、手指振戦、発汗増加などの甲状腺中毒症所見
  2. びまん性甲状腺腫大
  3. 眼球突出または特有の眼症状
b.検査所見
  1. FT4, FT3のどちらかまたは両方高値
  2. TSH低値(0.1 μU/ml以下)
  3. TSH受容体抗体(TRAb, TB II)陽性、または甲状腺刺激抗体(TSAb)陽性
  4. 放射性ヨード(又はテクネシウム)甲状腺摂取率高値、シンチグラフィでびまん性
【診断】
  1. バセドウ病: aの1つ以上に加えて、bの4つを有するもの
  2. 確からしいバセドウ病: aの1つ以上に加えて、b)の1.2.3.を有するもの
  3. バセドウ病の疑い: aの1つ以上に加えて、bの1と2を有しFT4, FT3高値が3か月以上続くもの
【付記】
  1. コレステロール低値、アルカリフォスファターゼ高値を示すことが多い
  2. FT4正常でFT3のみが高値の場合がまれにある
  3. 眼症状がありTRAbまたはTSAb陽性であるが、FT4およびTSHが正常の例はeuthyroid Graves’ disease  またはeuthyroid ophthalmopathyといわれる
  4. 高齢者の場合、臨床症状が乏しく甲状腺腫が明らかでないことが多いので注意
  5. 小児では学力低下、身長促進、落ち着きのなさなどを認める
  6. FT3 (pg/ml)/FT4 (ng/dl)比は無痛性甲状腺炎の除外に有用な指標である
  7. 甲状腺血流測定が無痛性甲状腺炎との鑑別に有用である
  • FT4, FT3の高値とTSHの抑制で、甲状腺中毒症の診断がなされ、さらに本症の原因物質である血中のTSH受容 体抗体(TRAb, TB II)が陽性であることから診断される。
  • TRAbが陰性の場合には、生物活性としての甲状腺刺激抗体(TSAb)を測定し確認するが、第3世代のTRAb測定 法を用いると、このような必要性はほとんどない
  • バセドウ病の治療薬(抗甲状腺薬)は、副作用があるため、バセドウ病と診断した上で(または、確からしいバセ ドウ病と判断した上で)治療を開始する
  • 甲状腺機能亢進症は他にも無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎などの原因がある

バセドウ病の治療法は3種類に大別されます

内服治療(抗甲状腺薬)

甲状腺ホルモン合成阻害薬である「抗甲状腺薬」の内服治療です。 抗甲状腺薬には、MMI(メルカゾール)と、PTU(チウラジール、プロパジール)の2種類があります。
一般的にはMMIを第一選択として使いますが、妊娠中・授乳中の患者さんにはPTUを用いることが勧められています。

抗甲状腺薬の「長所」

  • 外来で治療を行う事が出来る
  • すべての患者さんに施行できる
  • 機能亢進状態が、不可逆的な機能低下状態に陥ることがほとんどない

抗甲状腺薬の「短所」

  • 薬を飲まなくても良い状態になるまでの治療期間が長い。
    その可能性も低い
  • 1.5~2年の経過で休薬・寛解(薬を飲まなくても良い安定した状態)のめどが立たないような場合には、ほかの治療法を検討することもある
  • 副作用の頻度が高い

抗甲状腺薬の副作用について

軽度な副作用として、皮疹(蕁麻疹)、軽い肝機能障害、筋肉痛、関節痛、発熱などがみられることがあります。重大な副作用には、無顆粒球症、多発性関節炎、重症肝障害、MPO-ANCA関連血管炎症候群などがあります。

無顆粒球症とは、血液中の白血球成分である好中性顆粒球が500個/μL以下に低下した状態を指します。
日和見感染を起こしたり、急激に重症感染症に至る可能性が高く、大変危険な状態です。
抗甲状腺薬で無顆粒球症をきたす頻度は0.3-0.4%程度と低いですが、バセドウ病に対して抗甲状腺薬で治療中の患者さんでは十分に注意する必要がある重大な副作用です。
  • 外来で治療を行う事が出来る
  • すべての患者さんに施行できる
  • 機能亢進状態が、不可逆的な機能低下状態に陥ることがほとんどない

抗甲状腺薬で比較的早く良くなる症例は

  • バセドウ病発病半年以内
  • 甲状腺が小さい
  • 甲状腺機能亢進症の程度が比較的軽い
  • TRAbやTSAbの値がそれほど高くない

アイソトープ治療(放射性ヨード内用療法)

抗甲状腺薬が有効でない治療抵抗性のバセドウ病に対して行うアイソトープ(ラジオアイソトープ:放射性同位元素)を用いた治療法です。

アイソトープ治療とは、どんな治療法か?

「放射性ヨード」という放射線を発するアイソト-プを中に入れたカプセルを飲むという方法です。
体内に吸収された放射性ヨードの多くが甲状腺細胞に取り込まれる性質を利用し、ピンポイントで甲状腺ホルモンを作る細胞を徐々に破壊していきます。
その結果、作られる甲状腺ホルモン量が少なくなります。
放射性ヨードから出る放射線の影響は、甲状腺だけにあり安全な方法であります。

アイソトープ治療の「対象者」

  • 妊婦や妊娠している可能性のある女性、母乳を与えている方は不可
  • 18歳以下の方は、他の治療法が選択できない時に慎重に検討

(以前は、放射線被爆を懸念する観点から、若い女性には薦めないなどの考えがありましたが、安全性が確立されています。)

アイソトープ治療内容について、効果など

  • アイソトープ治療をするのに一旦抗甲状腺薬をやめる必要がある
  • 1回のアイソトープ内服で効果が発現するには時間がかかる(数か月後)
  • 1回で効果が不十分な場合には、数回にわたって行うことがある
  • 1回の治療で服用する放射性ヨードの分量は、甲状腺重量(大きさ)を基に算出されるので、甲状腺重量が大きいバセドウ病患者さんに適さない
  • 最終的に、甲状腺機能低下症になる可能性が高い。
    バセドウ病が完治するかわりに甲状腺ホルモン剤の内服が生涯必要になる。
  • バセドウ病眼症が、再発または悪化する例がある

外科手術治療(甲状腺切除手術)

甲状腺を切除する外科手術です。 バセドウ病の甲状腺機能亢進症に対する有効な治療法の一つで、治療効果が早く得られて確実性が高い方法です。

甲状腺切除手術の「対象者」

  • 甲状腺癌など腫瘍を合併した方
  • 抗甲状腺薬が副作用で使用できず、かつアイソトープ治療を希望しない方
  • 早期に症状の安定を希望する方
  • 甲状腺腫が大きい方

以前は、難治性のバセドウ病(内科的治療抵抗性または甲状腺腫が大きい等の治りにくい症状)に対する手術として、甲状腺の一部を残す(残置甲状腺は4~6g程度)「甲状腺亜全摘」が一般的に行われていました。 これにより、甲状腺機能がちょうど良いバランスになることを期待する治療法でした。しかし、術後2年後に15%、5年後には20%程度の甲状腺機能亢進症の再発があります。 現在では、このような難治性バセドウ病に対する外科手術として、甲状腺機能亢進症の再発を無くするために「甲状腺全摘術」を行うことが多くなっています。

南池袋パークサイドクリニックの「バセドウ病」の診療について

患者さんの症状をうかがい診察の上、血液検査・超音波検査を行います。
バセドウ病の診断で内服治療が適当と判断した場合は、血液検査で甲状腺ホルモンの様子・副作用のチェックなどを行いながらお薬の治療を継続していきます。
定期受診の方では、院内で血液検査を行い約1時間後、結果を確認しながら診察をさせていただきます。
バセドウ病の治療は、甲状腺専門の医師(大学病院出身)がいる南池袋パークサイドクリニックにお任せください。東京都の池袋駅東口出て5分です。