医療コラム「甲状腺が腫れてる? 首に違和感があるときに確認すべきポイント」
今年5月から始まりました南池袋パークサイドクリニックの新コーナー、甲状腺専門医が皆さんの疑問にお答えするコーナー、第四回です。今年ももう1か月と少しになってしまいました。無事に4回目を迎えた新しい試みのコラム、皆さんが日常で感じる疑問を拾い集めて長く続けていきたいと思います。
こちらのコーナーがみなさんの甲状腺への理解を深め、必要な方が適切なタイミングで甲状腺の先生と出会えることの一助になりますように・・・。
今回のテーマはこちらです
『甲状腺が腫れてる?首に違和感があるとき確認すべきポイント』
テーマには「甲状腺が腫れてる?首に違和感があるとき」とありますが、そもそも甲状腺が「首」にある事をみなさんはご存知でしょうか?「甲状腺」が腫れていることを医療従事者でも一般のみなさんでも、よく「首」が腫れていると表現します。という事は、甲状腺は「首」にあるらしいという事は有名なのでしょうか?
では、首のどのあたりにあるのでしょうか? 首と言っても広いので、患者さんが甲状腺のしこりでは?と思ったしこりが実はリンパ節だったり、顎下腺(唾液腺)だったりという事がたまにあります。まずは、甲状腺が「首」のどのあたりにあるのか見ていきましょう。
※このコラムを毎回楽しみに読んでますという方は余りいらっしゃらないと思います。読んでいる方は、気になることがあって、インターネットで単語検索をしたらこの記事が出てきたので読んでますという方が多いと思いますので、前回のコラムで確認した甲状腺の位置を再度説明します。
甲状腺は首のどこにあるのか?
甲状腺は、のどぼとけの骨(女性にもあります!)の下にあり、蝶々の様な形をしている臓器です。

ご自身でも、鏡をみながら確認してみて下さい。
顔を少し上にあげます(椅子に座って壁にかかっている時計を見る感じで)。すると、のどぼとけが確認しやすくなります。ど真ん中のあたりで飛び出ている部分にさわれたら、それは、のどぼとけの骨の下にある「輪状軟骨」です。
男性は、すぐわかりますかね? 女性も実は全く同じ形の甲状軟骨・輪状軟骨という喉の骨があるので、同じように触れるはずです。
そして、のどぼとけの骨から少しずつ下に降りていくと、気管という空気の通り道の管を触ることができます。口や鼻から入る空気がここを通り肺へ行きます。本当に「管」なので管状の構造物がまっすぐ下へつながっています。この気管の周りにまとわりつくようにあるのが「甲状腺」です。
※ここで、注意点としては、大変申し上げにくいのですが、かなりふくよかな方や筋肉りゅうりゅうの方は分厚い脂肪や筋肉が邪魔をして、ちょっと触っても分かりにくいかもしれません。逆に言うと痩せ気味の方は、触らなくても鏡の前でやや上を向くだけで、のどぼとけの骨を認識することができるかもしれません。
まとめると
・首の真ん中で縦に走るのが「気管」
・気管の一番上に「輪状軟骨」
・その上に「のどぼとけの骨(甲状軟骨)」です。
そして、この気管や甲状腺の両サイドに、耳の下の方に向かって「胸鎖乳突筋」という筋肉があります。この胸鎖乳突筋が発達しているかどうかで、気管や甲状腺の辺りの見え方が変わってくるかと思います。
私たち専門医でも触診は、まずは、のどぼとけの骨(甲状軟骨)の下にある輪状軟骨を触って確認することが始まりになります。上の図のとおり、のどぼとけの骨の下で気管の周りに甲状腺があるイメージです。
次にとても大切なことをお伝えします。
正常な甲状腺は触れることができない。
実は正常の甲状腺というのは、手で触っていったときに、「全然甲状腺の存在が分からない、気管の管状の構造が触れるだけで、周りに何も感じない」状態を指すのです。医学の教科書で言えば、甲状腺の触診所見は「触れないのが正常」となります。
ここで、気管を触ろうとすると甲状腺が触れる(気管がわからない)、甲状腺の形が分かるとなると「甲状腺がはれている」となります。ただし、甲状腺の触診は大変難しいので正常なのかちょっと腫れているのかの違いは分からないと思ってください。
話を戻しますが、甲状腺の位置はだいたいわかりましたか?
首の中央ど真ん中にあるので「甲状腺がはれている」ことを「首がはれている」と表現できるのでしょう。この首の中央部分の甲状腺がありそうな場所から少し離れたところに、しこりを感じることもあると思います。その場合は、リンパ節や顎下腺(唾液腺)を触れている可能性があります。
しこりは、リンパ節や顎下腺(唾液腺)を触れているだけかも
リンパ節は、首の全体いたるところに存在しています(どちらかというとど真ん中より両側です)。リンパ節というのは、特別な病気でなくても軽く腫れることはありますし、病気の場合もリンパ節の病気で腫れることもあれば、近くの臓器の病気のせいで腫れることもあります。ですので、原因が甲状腺である可能性も考えられます。首にしこりがあるけどちょっと甲状腺の場所からずれている?と思っても、遠慮なく甲状腺の診察を受けて良いと思います。
顎下腺(唾液腺)は、唾液を作る臓器で顎の骨のすぐ下にあります(あごの骨の内側?というのでしょうか)。こちらにしこりがある場合も、リンパ節との区別なども難しいので、よく分からなければ甲状腺の病院へ行ってみるのも悪くありません。逆にむしろ顎のところにあり顎下腺が心配だという場合には専門の耳鼻科の先生に診てもらって下さい。耳鼻科の先生も私達もお互いに「首に何かある」という事で受診される患者さんがたくさんいらっしゃるので問題ないでしょう。
このように甲状腺自体は、のどぼとけの骨の下の辺りにありますが、関連するしこりがその周囲に出てくることがありうることを踏まえると、首が腫れている・首に違和感がある・首にしこりを感じる、いずれの場合も甲状腺に関連する可能性があるため、甲状腺のチェックを受けてみてよい症状です。
知っておくべきこと
まずは、甲状腺が腫れているかどうかを見たり触ったりして判断するのは医師であっても難しいという事を知っていてください。首の様子に個人差がありますし、甲状腺自体あまり大きな臓器ではないので、専門医が触診(触って診察する事)をしても分かりにくい事はあります。ですので、みなさんが私の甲状腺は腫れてないかしら?とチェックをしようと思っても、なんだかよく分からないなと感じるのが普通だと思います。
そして、ご自身で確認できる①首が腫れている ②首に違和感がある(感じる)は、想定される甲状腺の病気が少し違ってきます。ですから、①②の違いを見ていくことが、確認する際のポイントになってきます。
甲状腺を確認する際のポイント
①首が腫れていないか
「首に違和感がある」というのは、ご本人にしか分からない症状ですね。それに対して、甲状腺が腫れているのでは?首がはれているのでは?というのは、誰かがあなたを見て思う事でもあります。
健康診断やたまたま風邪などで病院を受診した際に医師から甲状腺が腫れている(腫れているかもしれない)と言われた場合、これは甲状腺についての知識がある医師(専門ではなくても)の判断なので、甲状腺の診察を受ける様に言われたら受診をしてください。結果として異常なしとなる場合もあると思います。
ご自分や家族・お友達などからの言葉で「甲状腺が腫れているかもしれない」「首が腫れている?」と感じた場合ですが、甲状腺が腫れているという言葉には、実は2つの状況が考えられます。甲状腺全体が大きい場合(医学的には甲状腺腫大と表現され、想定される病気としては橋本病やバセドウ病など)と、甲状腺の一部が膨れている場合(想定される病気としては甲状腺の腫瘍)です。
甲状腺全体が大きい場合
これは相当大きくならないとご自身で気づいたり、家族やお友達などから指摘されたりすることはなかなかないと思います。また、想定しているようなバセドウ病などは、腫大以外にも症状を感じることも多いので(以前のコラムなどを参照してください)必ずしも首の腫れに気づかなくても病院受診につながるでしょう。
また、そこまでの大きさではないが「甲状腺が腫れているのでは?」と気になる場合は、まずは数年前の写真と見比べてみるなど、変化を確認してみると良いかもしれません。先ほど甲状腺の場所の説明で、体格(ふくよかかどうかや筋肉のつき方)で甲状腺見え方や触り具合が変わることをお伝えしましたが、数年前のご自分との比較であれば体格差はほぼないと思いますので比べてみると判断がつく場合があります。
特に他の症状を感じていなくても、明らかに甲状腺が大きいと感じる場合は甲状腺の診察を受ける必要があります。
甲状腺の一部が膨れている場合
みなさんが数年前の写真と見比べるまでもなく、悩むまでもなく腫れていると感じる場合は、こちらの場合が多いと考えます。つまり、甲状腺腫瘍が想定される状況ということです。
腫瘍なのでおおよそ丸い形状で飛び出ていたり、腫瘍のある側とない側の左右差が出ていりするためご本人でも気づきやすいかもしれません。腫瘍がかなりおおきいと「しこりがある」と感じるよりも「甲状腺がはれている」「首がはれている」と感じることもよくあります。
バセドウ病や橋本病などと違って腫瘍の場合は、腫瘍自体を「腫れている」「しこりがある」と感じる以外の症状はほとんど感じないため他の症状から受診につながる可能性は低いと思います。例外として、短期間(数日など)に急に大きくなる腫瘍の場合に限り痛みを伴います。
いずれにしても、はっきりと「これは腫れているな!」と感じる場合は、甲状腺の腫瘍の可能性が考えられるので、早めに甲状腺専門の先生の診察を受けることをお勧めします。
腫瘍と言われて受診するのが少し怖いなと思ってしまった方もいらっしゃるかもしれませんが、甲状腺腫瘍の多くは良性です。論文により頻度のばらつきが多いのですが、触診で甲状腺腫瘍が発見された場合のがんの頻度は5-15%程度との報告があります。私たちの外来では触診で分かるような腫瘍ががんであった頻度は10%にも満たないように感じています。また、甲状腺のがんは性質のおとなしいものが多く過度に心配する必要はないと思いますので、甲状腺がはれているな・首が腫れているなと感じたらしっかりと診断を受け、経過観察や治療を受けるメリットが大きいと思ってください。
腫れているというよりしこりを感じる
こちらのケースは、大きすぎない2-3cm程度の腫瘍の場合に「しこり」と自覚されるのではないかと思います。甲状腺の腫瘍の場合は、先ほどお話しした甲状腺の存在する部分に腫瘍を感じます。そして、そこから少し離れた場所にしこりを感じる場合は、先ほど触れたように、首のリンパ節や顎下腺(唾液腺)から出た腫瘍の可能性があります。
いずれにしても、みなさんが正面から鏡をまっすぐ見た時に見える範囲(首の後ろの方ではなく前側)に見える・触れるしこりに関しては、甲状腺と関連する可能性もありますし、しこりを感じるという点では医師の診察が必要です。受診をしなくても良いと思われるしこりは、首の中心から少し離れた外側にあって(鏡を正面から見た時に端っこの方にある)、1cm程度と小さめで、何年も変わらずあるものです。これは、特に病気という訳でなくても腫れているリンパ節である可能性が高いと思います。
②首に違和感がないか
「違和感がある」かどうかはご本人にしか分からない症状ですね。違和感がある人の中で、これまでの甲状腺の場所や確認の仕方などを読んで「甲状腺が腫れていたんだ!」とお気づきになった方は、まずは診察を受けてみて下さい。
そして、全然腫れてないわ…という方、腫れていなくても「違和感」という症状が出る病気があります。それは「橋本病」という病気です。
以前のコラムで「甲状腺機能低下症」の症状について扱ったのですが、この「甲状腺機能低下症」の原因で一番多い病気がこの橋本病(慢性甲状腺炎)です。逆に、橋本病(慢性甲状腺炎)の方の全員が甲状腺機能低下症という訳ではなく、甲状腺機能(甲状腺ホルモンの状態)は全く正常である方もたくさんいらっしゃいます。が、甲状腺ホルモンの状態が正常でも低くても、橋本病(慢性甲状腺炎)であるというだけで感じる可能性がある症状こそが「違和感」です。
橋本病(慢性甲状腺炎)では自己免疫の異常により甲状腺組織である種の炎症が起こってしまいます。それにより、甲状腺が腫れたり硬くなったりすることから違和感や圧迫感が生じる事があります。客観的に見て大きくなくても違和感があるとおっしゃっている方も多くいます。
ですので、違和感がある場合は腫れているかどうか確認するとともに、腫れていなくても違和感が長期に続いて気になる場合は、やはり甲状腺の診察を受ける意義があると思います。違和感があり受診される方で、結果として甲状腺の検査に異常がない方もいますが、橋本病(慢性甲状腺炎)は検査をしないと診断がつかない病気でもあるので、気になる場合には一度は確認して良いと思います。
いかがでしたか?
甲状腺の視触診(見たり触ったりして診察する事)は、私たち専門医でも難しい場合もあるので、皆さんが自分でチェックするのは難しいと思います。ですから、甲状腺がはれている?首がはれている?と感じる場合、そう思うには何かしらの理由があると思いますし、心配であれば受診するのが一番安心かもしれませんね。確認すべきポイントをシンプルに言うと、まずは甲状腺の場所を確認して、甲状腺が腫れているかどうかを見てみるという事でしょうか。
当院では、甲状腺の診断に必要な血液検査と超音波検査の結果は当日分かります(血液検査の測定時間は1時間程度)。お時間に余裕をもって受診していただければ、実際に甲状腺が腫れているのかどうか、腫瘍があるのかどうか当日にははっきりしますよ。「甲状腺が腫れている」「首が腫れている」「しこりがある」などの症状を感じたら是非甲状腺の検査を受けてみてください。
初めての方は、こちらの予約ページからネット予約が可能です。また、お電話でのご予約も承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
この記事を書いた人
川真田 明子(かわまた あきこ) 医師・医学博士
甲状腺・副甲状腺疾患、乳腺疾患を中心に、内分泌外科領域全般を専門とする。日本外科学会専門医、日本乳癌学会認定医、マンモグラフィー読影認定医、日本内分泌外科学会 内分泌・甲状腺外科専門医、日本甲状腺学会専門医、がん治療認定医、日本超音波医学会専門医・指導医などの資格を有する。当院で甲状腺や乳腺の診療を行っている。
