医療コラム「甲状腺がんの初期症状とは?早期発見のために知っておくべきサイン」
先月から始まりました南池袋パークサイドクリニックの新コーナー、甲状腺専門医が、みなさんの疑問にお答えするコーナーの第2弾です! こちらのコーナーが、みなさんの甲状腺への理解を深め、必要な方が適切なタイミングで甲状腺専門の先生と出会えることの一助になりますように。
今回のテーマはこちら
『甲状腺がんの初期症状って何?早期発見のために知るべきサインとは』
まず、前回もお伝えしましたが、甲状腺の病気はごく一般的な健康診断では直接的にはチェックされません。血液検査があっても甲状腺の項目は通常入っておりませんし、自治体で行われるようながん検診は胃がん・肺がん・大腸がん・子宮頸がん・乳癌・前立腺がんといった罹患(らかん:病気にかかること)頻度の高いものが中心となります。従って、人生のなかで一度も甲状腺の検査を受けずに過ごされる人もたくさんいらっしゃることと推測いたします。
では、がんの「早期発見」というのはどういう事を指すのでしょうか
テーマと真逆の事をいう様ですが、がんの「早期発見」というのは「症状がない状態で検査をうけたら、たまたま発見された」という事を指すのではないでしょうか。身の回りの人にも、「本当にたまたま人間ドックで受けた検査で初期のがんがみつかったの」というような方はいませんか?
この様に、早期発見というのは症状がないか、ほとんど気にしていない程度の症状しかなかった状態での発見という事でしょう。そのため、早期発見のための症状をお示しするのはなかなか難しそうですね。更に、ごく一般的な健康診断では検査項目に入らない甲状腺疾患に関しては、「たまたま検査を受ける」という状況も余りなさそうです。
当院では、受診される患者様の一定数が甲状腺がんの診断にいたっています。いわゆる健康診断や自治体のがん検診に検査項目の入らない甲状腺がんが早期発見されるのは実際にはどのような時なのでしょうか。たくさんの患者様に受診していただいていますので、実際に私たちの診療で甲状腺がんの診断をされる患者様がどのように当院へ受診されたのか、受診後のながれ等のポイントを見ていくことで本日のテーマにお答えすることが出来そうです。
改めて、がんの早期発見とは?
「早期発見」はよく聞く言葉ですが、今回改めて正確な意味を調べてみました。この言葉に正確な定義はないようです。ですが、「がんの早期発見」というのは、「根治治療(病気の根本原因を解決し完全に治す治療)が可能な早期の段階で発見すること」あるいは「治療が比較的に容易であるうちに発見すること」と言える様です。つまり、その段階を超えて進行した癌は、根治治療が難しくなってしまう=命にかかわってくるかもしれない、という事と言えます。
甲状腺がんの多くは「おとなしい がん」
実は甲状腺がんにおいては、多くは命にかかわる経過にはならない「おとなしい」がんなのです。具体的に、どのような病気なのかお話していきます。
まず、甲状腺がんと言っても4種類もあります。その種類によって振る舞いが違ってきます。※各臓器のがんも同様に病理学的にはいくつかの種類があったりしますよ。
<甲状腺がんの種類と頻度>※引用
①甲状腺乳頭がん(こうじょうせんにゅうとうがん)
甲状腺がんの中で最も多く、約90%を占めます。リンパ液の流れに乗って転移するリンパ節転移(リンパ行性転移)が多いですが、基本的にゆっくりと進行するため、急に命に関わる状況になることはまれです。ただし、ごく一部の乳頭がんは再発を繰り返すことがあります。また、突然悪性度の高い未分化がんに変化することがごくまれにあります。
②甲状腺濾胞がん(こうじょうせんろほうがん)
濾胞がんは、甲状腺がんの中で2番目に多い(約5%)がんです。良性の甲状腺腫瘍(濾胞腺腫:ろほうせんしゅ)との区別が難しいことがあります。乳頭がんに比べて、リンパ節への転移は少ないのですが、血液の流れに乗って肺や骨など遠くの臓器に転移(血行性転移)しやすい傾向があります。このように遠くの臓器への転移(遠隔転移)が起こらない場合は、乳頭がんと同様、予後は比較的よいとされています。
③甲状腺低分化がん(こうじょうせんていぶんかがん)
髄様がんは、カルシトニンを分泌する傍濾胞細胞(ぼうろほうさいぼう)に由来するがんで、甲状腺がんの約1〜2%です。髄様がんは分化がん(乳頭がんや濾胞がん)と比べて悪性度が高く、リンパ節や肺のほか、肝臓へ転移しやすいという特徴がみられます。なお、髄様がんはRET遺伝子という遺伝子に変異がある場合があります。つまり、家族性に出てくるがんである場合があるということです(ご両親のうちのどちらかの家系の親戚に同様の病気の方がいる)。
④甲状腺未分化がん(こうじょうせんみぶんかがん)
未分化がんは、甲状腺がんの中の約1~2%の割合です。悪性度が高く進行が速いことから、甲状腺周囲の臓器(反回神経、気管、食道など)への浸潤(しんじゅん)や全身の臓器への転移を起こしやすいという特徴があります。このがんは、基本的には高齢者におこると考えて良いと言えます。
※引用元:がん情報サービス(https://ganjoho.jp/public/cancer/thyroid/print.html)
この他に、甲状腺に悪性リンパ腫ができることがあります。悪性リンパ腫はいろんな臓器に出てくるリンパ系のがんなので、甲状腺から出てくるがんとは成り立ちが違います。悪性リンパ腫の治療方針に沿って治療します。
もっとも一般的な甲状腺のがんは「甲状腺乳頭がん」
甲状腺にできる4つのがんを見てきました。上記した通り、約90%が「甲状腺乳頭がん」です。私たち甲状腺外科専門医がもっともかかわる病気と言ってもいいでしょう。実際に私たちの外来で甲状腺がんと診断される方の「ほとんど」が甲状腺乳頭がんであり、皆さんが実際に関わる可能性のある甲状腺のがんは、甲状腺乳頭がんである可能性が圧倒的に高いと言えます。したがって今回のテーマ『甲状腺がんの初期症状って何?早期発見のために知るべきサインとは』についても、この甲状腺乳頭がんに絞ってみていくことにしましょう。
甲状腺乳頭がんは「おとなしい」がんであると言われます。その、具体的な内容というのは、がんにしてはとても進行が遅く、血液の流れに乗って肺や骨など遠くの臓器に転移(血行性転移)する性質が少ないことです。
みなさんが、がんは怖いから「早期発見したい」と思う理由はなんですか?
・進行が早く「早期発見」しないと治療が難しくなる
・血行性転移を起こすような進行した段階よりも前に「早期発見」した方が根治治療の可能性が高くなる、こういった理由ではないでしょうか?
すると、甲状腺乳頭がんはそもそもこういった状況にはなりにくいがんであるといえます。「がんらしくないがん」と言われることもあります。
みなさんは、がんの「病期分類(ステージ分類)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 私たちは、外来で甲状腺がんの告知をした際に、「ステージは?」と質問されることがあります。甲状腺乳頭がんのステージ分類が、その「がんらしくないがん」を表しています。
みなさんは、多くのがんでステージIが初期の段階で、血行性転移があるような進行している状態がステージIVと分類されることは聞いたことがあるのではないでしょうか? 上図をみると、55歳未満であればたとえ血行性転移があってもステージがIIに分類されている事が分かります。また、それ以外のどのような状態でもステージはIとなっている、そのくらいに甲状腺乳頭がんは全体にのんびりしているがんなのです。
甲状腺乳頭がんでは、必ずしも早期発見が必要という訳じゃない?!
では、甲状腺乳頭がんは進行も遅いし命にかかわるような経過なのだから、進行してから見つかったって良いのだ、と言ってしまって良いのでしょうか? 私たちは、そうは思いません。確かに、他のがんとくらべたら命にかかわるだとか、生活に支障が来す経過になる人が『少ない』です。が、少ないとしても、実際にその立場になった患者様にとっては大変な病状という事になります。
また、そこまで進行していないとしても、しかるべき時に見つかれば、より小さい手術で済み、それは種々の手術合併症のリスクの軽減にもなります。いわゆる「がんの早期発見」の観点でいう、「根治治療が可能な早期の段階で発見すること」という視点で言えば、幸いなことに甲状腺乳頭がんは進行も遅いし、根治治療が難しくなるような進行自体の頻度も少ないので、診断された時点で「根治治療が可能な段階」である患者様が多いのが事実でしょう。ですが、やはりそんな中でもより早期の発見は患者様にとっても私達にとっても良い事と考えます。
手術をしていると命にはかかわらなくても、「もう少し診断が遅かったら大変だったな」と思うことがあります。甲状腺の周囲には、とても大切な気管(肺に空気を送る管)や反回神経(声帯を動かして声を出すことに関わる神経)や大切な動静脈(脳に血液を送る総頚動脈など)があるので、こういった重要な臓器に、がんが広がってしまってからでは、それらの臓器を温存することが難しい場合があり、手術のリスクが格段に上がってしまうことがあります。
また、小さいがんなら甲状腺を全摘せずに甲状腺の機能を温存(甲状腺ホルモンを作る機能を残す)できたものが、がんが大きいというだけで甲状腺全摘を要することもあります。
まずは、検診を受けたり、医師に言われたりした時にはちゃんと受診を。
がんによる余命に変わりはなくても、患者様にとってメリットがある「早期発見」のためのサインとは?? 実は、残念なことに「早期から出る症状やサイン」をお示しするのは難しいのです。腫瘍がごく小さいうちは症状もサインもなく腫瘍が現れてきます。痛みも何も感じません。おおよそ甲状腺の腫瘍が2~3cmを超えてからの自覚症状としては、「しこりを目視や触診で気づく」や「喉の違和感などの症状が現れる」ことがあります。ただし、例えば筋肉質の男性など、頸部の筋肉がしっかりとあるような方では、しこりに気づくのもむずかしいかもしれません。また、「声がかれる症状が長引く」場合も甲状腺腫瘍の可能性を考える必要があります。
もしも、
「しこりを感じる(見て、あるいは触って。人から言われて。)」
「くび、のどのあたりに違和感がある」
「声がかれている(良くならずに続く)」
などの症状がある場合は、甲状腺腫瘍の有無を確認するために受診をしてください。
こういった症状がまったく現れずに進行することがあるのが、甲状腺がんの特徴です。
では、何に気をつければよいでしょうか。
それは、通常の健康診断や任意検診(人間ドックなど)で、何かしら「甲状腺」に関する事で再検査や要精査の判定が出たら、ちゃんと受診をすることです。あるいは、風邪を引いたなど別のことで病院を受診した際に「甲状腺の検査をうけてみて」と言われた際に、ちゃんと受診して下さい。
以下に私たちの外来で甲状腺乳頭がん(甲状腺がん)と診断される方のよくある受診の経緯(理由)を挙げますので、是非参考にして下さい。
【甲状腺腫がんが見つかるきっかけの多い事例/サイン】
●風邪をひいて、かかりつけの医師に受信した時に「甲状腺がはれてるね」と言われた
●健康診断で甲状腺が腫れていると言われた
●高血圧や高脂血症で通院中、動脈硬化の評価のために「頸動脈エコー」を受けたら、甲状腺に腫瘍があるといわれた
●「肺」の検査のためのCT検査で甲状腺に腫瘍があると言われた
●月経不順など婦人科的な症状で、婦人科に行ったら(血液検査で)甲状腺機能異常を指摘された
●不妊治療を受ける際の血液検査で甲状腺機能異常を指摘された
●メンタルクリニックの血液検査で甲状腺機能異常を指摘された
●家族に首が腫れていると言われた
●こどもが風邪をひいて診察に同席したら「首がはれてますね」と言われた
ポイントは、甲状腺がんでは何の症状もないことも多いという点と一般的な健診(法定健診など)で問題なかったら大丈夫とは言えないという点です。
最後に、
当院では、甲状腺腫瘍の診断と治療開始に必要なすべての検査(血液検査と超音波検査・細胞診(病理検査))を当日に施行いたします。細胞診(病理検査)に関しては病理の先生に診ていただくため結果が1週間程度かかりますが、初診から約1週間で細胞診の結果をもって診断と方針の提示が可能です。
また、甲状腺がんの診断となった場合には提携している病院にて当院の治療の一環として手術を受けていただくことが可能です(クリニックの外来担当医が責任をもって手術を行います)。あまり一般的なシステムではありませんが、クリニックの良さと大きな総合病院の良さをお互いに利用するシステムであり、今後もこのようなシステムは増える事でしょう。開院以来12年間、当院と提携病院との連携システムにより、多くの患者さまの診療と治療を行ってまいりました。今後も安心して受診いただける体制を整えております。
甲状腺に腫瘍があるかも?と思ったらまずは甲状腺の診療を受けてください。
初めての方は、こちらの予約ページからネット予約が可能です。また、お電話でのご予約も承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
この記事を書いた人:
川真田 明子(かわまた あきこ) 医師・医学博士
甲状腺・副甲状腺疾患、乳腺疾患を中心に、内分泌外科領域全般を専門とする。日本外科学会専門医、日本乳癌学会認定医、マンモグラフィー読影認定医、日本内分泌外科学会 内分泌・甲状腺外科専門医、日本甲状腺学会専門医、がん治療認定医、日本超音波医学会専門医・指導医などの資格を有する。当院で甲状腺や乳腺の診療を行っている。