医療コラム「手が震えるのは甲状腺の問題? 手のふるえについて」

このたび、南池袋パークサイドクリニックのホームページでは新たにコラムのコーナーを始めました。日々の診療や暮らしの中で患者さんからよくいただく疑問・関心ごとをテーマに、わかりやすくお伝えしていきます。

手の震えは甲状腺か

甲状腺の病気は、ごく一般的な健康診断では直接的にはチェックされません。
血液検査では貧血や脂質、血糖、腎機能、肝機能などをみていることが多いですし、自治体で行われるようながん検診は胃がん・肺がん・大腸がん・子宮頸がん・乳癌・前立腺がんといった罹患頻度の高いものが中心です。これらの検査はいずれも、直接的に甲状腺を見る項目ではありません。

そんなこともあり甲状腺の病気は皆さんにはなかなか馴染みがなく、イメージしにくいのではないかと思いますので、こちらのコーナーが皆さんの甲状腺への理解が深まり、必要な方が適切なタイミングで甲状腺専門の先生と出会えることの一助になれば嬉しいです。

記念すべき第一回のテーマは…

『手がふるえるのは甲状腺の問題?症状を見逃さないために知っておくべきこと』

私たちが外来でお会いする患者様の中には「手のふるえ」の症状がきっかけで受診される方もいます。当然、“手がふるえるから甲状腺を診てもらおう!”と直ぐに甲状腺と結びつけて考えられる方はいません。

●手のふるえ以外にもいくつか気になる症状が続き、それらをネットで調べていて甲状腺の病気なのかと思った。
●家族に同じ病気の人がいて、「それって、甲状腺の病気じゃない?」と言われた。
●手のふるえで別の医療機関を受診し、甲状腺専門医への受診を勧められた。

など「手のふるえ」と甲状腺の病気の関連を知っている人からの情報を得て受診しており、少なくとも私の外来ではこのような経緯でいらした方の多くが実際に診断に至っています。

では、どのようなポイントがあるのでしょうか。

はじめに「手のふるえ」とは、どういった状態なのでしょうか

「ふるえ」とは自分の意志とは関係なく勝手に規則的に動いてしまう事をいいます。
緊張してふるえる、重たいものを長い時間持ったあとのふるえ、寒い時のふるえなどは皆さんも経験したことがあると思います。このようなふるえは健康な人にも起こる生理的現象で心配はいりません。皆さんも、こういったふるえは「普通のこと」として、心配の必要はない認識だと思います。

一方、ふるえを持続的に感じていて、字を書こうとするとふるえでうまく書けない、コップでお水を飲む時にふるえでこぼれそうになる、お箸を使う時にふるえて使いにくいなど、生活上で支障を感じるような場合はどうでしょう。何か原因があるのではないか?と心配になってくるのではないでしょうか。安静時にいつも感じるふるえや、字を書こうとするお箸を持つなど何かしようとするたびにふるえを感じるといった場合には何か治療を要するような原因が潜んでいる可能性があると言えます。

① 「手のふるえ」自体は振戦(しんせん)といってその原因は本態性振戦や生理的振戦が多い

「手のふるえ」の原因として最も多いのが本態性振戦です。ふるえ以外の症状がなく、画像検査や血液検査などでは異常が出ません。動作に関連して起こる振戦(運動時振戦)で一定姿勢に手を挙げている時や手を動かしている最中、例えばコップを口へ運んでいる時にふるえる、字を書こうとするとうまく書けないなどに見られます。年齢とともに頻度が増え50~70代に多く、家族性(家族の中で同じ症状の人がいる傾向)が多いと言われています。
次に生理的振戦ですが、健康な人でも経験する正常な現象のふるえを生理的振戦と言います。緊張や疲労などで起こるふるえです。

これらの他に、「手のふるえ」の原因となる疾患として、パーキンソン病やバセドウ病などが挙げられます。(そのほかにも、原因となりうる疾患や要因は様々です)。

② 甲状腺に関連する「手のふるえ」

甲状腺ホルモンの生産・分泌が過剰となり様々な症状を来すバセドウ病では、手を挙げた姿勢での細かいふるえ(姿勢時振戦)が出ることがあります。座った姿勢で両手を手のひらを上にしてお腹の前に挙げる姿勢で指先が細かくふるえる症状です。それを手指振戦(しゅししんせん)と言います。

手の震え確認方法

ここでのポイントは「手のふるえ」の最も一般的な原因は本態性振戦でありバセドウ病は原因の一部であるという点です。また、本態性振戦は年齢とともに頻度が増え50~70代に多く他に症状が無いのが特徴であるのに対して、バセドウ病は20~40代に最も多く後述するように他にも症状がある可能性が高い点が異なります。

③ 手のふるえを自覚するようなバセドウ病では他にも症状が出ている

同じ「バセドウ病」の診断を受けていても、その病状は様々です。甲状腺ホルモンが正常に近い人から正常の何倍も高くなっている人では症状が違いますし、同じ様なホルモン値でも自覚する症状には個人差があります。
実は「手のふるえ」は、バセドウ病で甲状腺ホルモン値がかなり高くなっている方に出てくる症状なのです(あくまで目安ですが、正常上限の3~4倍以上)。したがって、バセドウ病であった場合は「手のふるえ」以外にも色々と症状を感じている事でしょう。

・頻脈・動悸・息切れ:横になると心臓の拍動を感じる、階段を上るとすぐに息切れして苦しい、スマートウォッチで頻脈の警告がでる
・多汗・暑がり:周りの人が暑がっていないのに暑い
・筋力低下:朝起きたときに起き上がりにくい
・食欲亢進・下痢・腹痛:下痢までではないが軟便、今まで便秘で悩んでいたのに最近は妙に便通がよい
・過少月経・無月経:月経周期が乱れている
・体重減少:たくさん食べているのに体重が徐々に減ってきている(すぐにお腹がすくため)
・精神的高揚・イライラする、精神不安定、集中力の低下
・疲れやすい、不眠
・微熱が続く
・頸部腫脹(甲状腺腫大)

④ バセドウ病の診断には、血液検査や超音波検査などが必要

②でお伝えした様な種類の「手のふるえ」が続いていて、③のように他にもバセドウ病を疑う症状を感じるという場合には、甲状腺の検査を受ける必要があります。
血液検査で甲状腺ホルモンの状態やバセドウ病に関連する抗体などの測定をし、超音波で甲状腺の様子を確認することで診断が可能です。もし「手のふるえ」が他の原因だった場合も、バセドウ病を否定しておくことは無駄ではありません。
※③の様なその他の症状が全くなく、バセドウ病以外の原因を疑う場合は、神経内科などの受診をお勧めします。

⑤ バセドウ病の「手のふるえ」は治療でよくなる

さて、バセドウ病が原因で起こっている「手のふるえ」に関しては、バセドウ病と診断されて適切な治療が開始され、甲状腺ホルモンが正常へ下がるとともに消失していきます。治療開始後、1~2ヶ月程度で甲状腺ホルモンが正常程度へ落ち着くことが多いので「手のふるえ」も比較的速やかに改善するでしょう。
その他、上記に挙げたような症状は甲状腺ホルモンの正常化とともに軽快、消失していきます。

当院では、バセドウ病の診断と治療開始に必要な血液検査と超音波検査の結果は当日分かります(血液検査の測定時間は1時間程度)。時間に余裕をもって受診していただければ、バセドウ病の診断であった場合、当日に治療開始可能です。
バセドウ病は甲状腺ホルモン高値の例では体への負担がかなり大きく早期の診断治療が重要です。バセドウ病かもしれないな?と思ったらぜひ甲状腺の検査を受けてください。

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